VCR(VTR)
2005年 04月 21日
もちろん、VTRという英語がけっして誤っているわけではない。ただ、ふつうはテレビ(television set)の下あたりに鎮座している家庭用のカセット式ビデオテープレコーダーを指していう言葉としては、米国ではマイナーだということだ。
私と同年代、またはその前後の年代の方なら記憶にあるだろうが、昔のオーディオテープは、裸のテープを、リール(reel)と呼ばれる2個の円盤の片方からもう一方に巻き付けながら、録音または再生していた(オープンリール方式)。「テープレコーダー」(tape recorder)と呼ばれたこの装置は、やがて一般家庭にも普及した。
その後、1960年代の後半になると、カセット(cassette)と呼ばれるケースに収納されたテープを用いる簡便なカセットテープレコーダー(cassette tape recorder)が出現した。1970年代にこれが普及するにつれて、オープンリール式のテープレコーダーはやがて家庭から姿を消した。
ビデオテープレコーダーも、放送局などで当初使われていた業務用の装置は、初期のオーディオテープレコーダーと同様、オープンリール方式であった。その当時はたぶん、VTRという呼び名しかなかったはずだ。
ところが、オープンリール式から普及したオーディオのテープレコーダーとは違って、VTRの場合は、1970年代後半から普及し始めた家庭向けの製品が、すでにカセット式(ベータ方式およびVHS方式)だった。アメリカなどでVTRの代わりにVCRという言葉が定着した経緯は定かではないが、どうやらこのような歴史的背景に一因がありそうだ。つまり、日本では古くからあるVTRという言葉がそのまま残った一方、米国では、家庭に普及したカセット式ビデオテープレコーダーを言い表すVCRという言葉が、それに代わって主流になった。そういったところだろう。
調べてみたところ、据置型VTRという意味でこの国でよく使われている「ビデオデッキ」(video deck)という言葉も、米国ではほとんど使われていないらしい。とはいえ、Googleで検索してみると、海外のホームページでもvideo deckという言葉も散見される。海外でまったく流通していない言葉でもないようだ。
(メルマガ「英語屋さんの作りかた」第2号掲載) ©Yoshifumi Urade 2003